1.顧問税理士は配偶者に近い役割
事業者の方や社長さんにとって、本来、顧問税理士というのは夫や妻のような配偶者に近い役割だと思っています。
事業がうまくいっていたら一緒に笑い、苦しいときは一緒に悩み考えてくれる、当然失敗だったと思ったら離婚できるのと一緒で顧問税理士とも契約解除すればいいわけですが、やはり離婚のように(たぶん)ストレスはかかる、そんな存在ではないでしょうか。
そういった意味では、ネットなどの方が安いからとか、知人の紹介でお気軽に選んでしまうというのはあまりお勧めできません。本当に信頼できる方からの確かな紹介は別ですが、安易に選ぶのではなく、ある程度慎重に選んだ方が良いでしょう。
ただ、理由は後で述べますが、一人社長や個人事業主でも、最初の立ち上げ時は激安税理士でやって、うまくいったらきっちりした税理士に乗り換えるという風に、最初から割り切っている方がいらっしゃいますが、それ自体は否定しません。
とはいうものの、一般の方がたくさんの税理士と知り合う機会というのはあまりないのも事実ですので、「慎重に選んだ方が良い」と言われても困るという方もいらっしゃると思います。
私の場合、地元の税理士会で役員(本記事執筆時は綱紀監察部長)などをやっている関係上、様々なタイプの税理士の方々と交流する機会があります。そこで本記事では、顧問税理士を選ぶにあたり、一人社長や個人事業主の方にはどのような税理士が適しているのか、一般の方々が持つようなイメージと少し違う観点から考えてみたいと思います。(ただし、あくまで個人の印象なので、独断的なところはご容赦ください(笑)。)
2.税理士をタイプ別に見る
まずは税理士を合格タイプ別にざっくり見ていきたいと思います。
税理士になるルートとしては、大きく分けて次の3つがあります。
- 税理士試験を地道に受けて合格する(ただし大学院卒業で一部科目免除)
- 公認会計士が税理士登録をして税理士を兼務する
- 一定期間勤務した税務職員が研修を受けて税理士になる
また、上記のほかに、著名税理士や大手税理士事務所なども選択肢としてお考えの方がいらっしゃると思いますので、そのあたりも含めてそれぞれの特徴を見ていきましょう。
1.税理士試験を合格した税理士
このタイプの税理士の方には、以下のような特徴があると考えています。
- 手堅い仕事振りで、比較的信頼できる
- 税理士・会計には精通しているが、それ以外のビジネス全般のことはやや疎い方も意外に多い
- コミュニケーション能力が低い方も割と見かける
税理士試験を合格した税理士の方は、大抵ほかの税理士事務所で修行して実務を積みあげてきている苦労人タイプが多いので、仕事ぶりは手堅く、信頼できる方が多いです。
あえて、欠点を申し上げるとすると専門学校や大学を卒業したのち、会計事務所勤めしか経験がない方が多いのでやや世界が狭い傾向があります。したがって、大企業勤めで独立した方などは、なんとなく話しても面白くないし、もの足らないと思われることはあるようです。
また、きちんとしたビジネスマナーがない、コミュニケーション能力が低いなどの問題のある方もたまに見かけることがあります。
ただ、このあたりはかなり個人でバラツキあるので、そのあたり見定められたら良いと思います。
2.公認会計士出身の税理士
税理士でも公認会計士出身の方がいますが、このタイプの税理士には、以下のような特徴があります。
- 大企業との業務経験が豊富である
- 中小企業に対する理解が乏しい方も見かける
年配の社長さんに多いのですが、「うちは公認会計士の先生にみてもらっている」と自慢される方がたまにいらっしゃいます。おそらく公認会計士試験の方が税理士試験より上だと思っているのでしょう。
確かに昔は公認会計士試験の方が税理士試験より難易度が高かったかもしれませんが、今はもしかすると税理士試験の方が難しい可能性があります。しかしながら、難しい試験に受かったからと言って偉いわけでもないですし、仕事ができるかどうかもわかりません。
公認会計士は本来の仕事として大企業中心なのに対し、税理士は中小企業中心です。特に大企業相手の監査法人でずっと過ごしてきたタイプの公認会計士だとそもそも中小企業に疎いタイプの方もみかけます。そう考えると、フリーランスや一人社長とっては、公認会計士資格取得者の方が一般の税理士より優れているということはなく、むしろ税理士業務一本でやってこられた人の方が向いている可能性があります。
そうは言いつつも、公認会計士出身税理士の方でも、勉強熱心で経験を積まれた優れた方も数多くいるので、必ずしもよくないということではありません(ちなみに私も公認会計士出身税理士です)。
特に大企業出身で脱サラして起業された方ですと、公認会計士は大企業の方々と付き合う経験がありますので、親しみやすく相性がいい事は多いようです。
3.税務署出身の税理士
あまり知られていないと思いますが、一定期間勤務した税務職員が研修を受けて税理士になることができます。こういった税務署出身の方には、以下のような特徴があると考えています。
- 税務調査に強い
- 税務署寄りの見方をする方もいる
このタイプの税理士は、昔は税務調査に強いということで重宝された時代がありました。ただ、逆に言えば一人社長やフリーランスなどは一生税務調査と縁のない方もいるくらいで、このメリットはさほどあるとは思えません。
しかも、税務調査に強い理由として、本当に税務署との交渉力があるパターンの方と、税務署から突っ込まれないようにかなり税務署寄りの保守的で安全な処理(納税者側にとってはあまり有利でない方法をとる)をする方と二通りあります。このあたりははっきり分かれて、前者の場合はありがたいですが、後者はあまり有り難くないですよね。
余談ですが、税務署出身の方には、昔は上から目線の威張っている困った方も多かったのですが、最近は腰の低い謙虚な感じの方のほうが増えた気がします。
税務調査に強いというだけでこのタイプの税理士を選ぶ必要はない一方、高飛車で怖そうという従来のイメージはほとんどないというのが私の印象です。
その他のタイプ(著名税理士や大きめな税理士事務所)
インターネットで検索すると、著名な税理士の方や大手税理士事務所の名前がいくつも見つかります。おそらく気になっている方もいらっしゃると思いますので、特徴を見てみたいと思います。
- 少額の顧問料のお客様の対応は、著名税理士や税理士事務所内の優秀な方が直接担当するのではなく、無資格の職員となる場合があ多い
- 担当者が何人もいるような大きめな事務所だと、担当がコロコロ代わる可能性が高い
一人社長やフリーランスの方には、著名税理士や大手税理士事務所は一般的にお勧めできません。著名税理士や大手事務所は多額の顧問料を払うお客様をたくさん持っていますから、少額の顧問料のお客様などは無資格の職員でほとんど対応となると思います。しかも、担当もやめてコロコロ変わるといった事態もあり得ます。
また、著名税理士だと「顧問になってやる」的な高ピ―な方もたまにお見かけします。やはり、驕慢な感じの方だとストレスもたまりますので、避けたほうがいいでしょう。
ただし、謙虚で親切な著名な方も少なからずいらっしゃいますし、非常に職員教育の行き届いた素晴らしい大手事務所もないわけではありません。そのあたり、例外はあります。
* * *
以上、税理士をいろいろなタイプ別にみてきました。
ここまで読まれて、「いったい結論は何だ!」と思われた方もいらっしゃると思いますが、実は結婚と一緒で「相性が良い方を選んでください」というのが私の考えです。
3.個人事業主や一人社長はこんな税理士を選べ
プライドを持ってお仕事をやられている税理士の先生には叱られそうなのですが、支払う税金の額というのは、一般の個人事業主や一人社長であれば、まともな税理士である限りほとんど変わりません。
当然、個人事業主といっても資産家の方などについては事情が異なり、資産税に強い税理士などが良いとは思います。(自分はたいしたことはないのでそういった方を紹介します(笑)。)
ただ、税理士の先生に支払う顧問料も、一般の個人事業主や一人社長の方でしたら、年商規模により10万~20万程度で(激安で10万未満もたまに見かけますが)そんなに変わらないと思います。
そういった意味では、「ストレスレベルが低くて相性の良い税理士」を選んだ方が良いわけです。
私も確定申告前の飛び込みの方などは、お互いわかり合える時間もありませんから原則お断りしております。逆に知人や紹介などでしたら、少なくともある程度私の事も知った上で来てくださるので、お互い不幸な出会いになる可能性は低いと思われます。
4.激安税理士は避けたほうが良いか
ところで、あまり安い税理士は避けたほうが良いとよく言われますが、本当でしょうか?
私は、個人事業主や一人社長でも、割と会計リテラシ―が高くて几帳面、かつ業績は良くも悪くもあまり変わらず、特に現状のままでもよいかなという方には、わりと向いていると思います。
激安という税理士は、一方で最低限のサービスに絞っています。要するに床屋でいうQBハウスみたいなものですから、親身に相談にのってくれるわけではありません。また、最低限のサービスにないものをお願いすれば、当然のことながら追加料金がかかり、安くはなくなります。悪く言えばタケノコ商法的な面もあり、追加料金がどんどんかかる事が多いようです。
しかし、ある程度やることが決まっていれば極めて効率的に安く処理してくれますので、個人事業主や一人社長の方で、几帳面にしっかり資料を期日通りに出していけるようなタイプの方、特に税理士に相談を求めていない方、配偶者のような深い関係を求めていない方は、このような激安税理士で十分だと考えています。(少し宣伝ですが、相談はある程度KITENで対応ということもできます!)
5.余談ですが少しだけ自分の話をしますと・・・
私の場合、別に個人事業主や小さな会社の方お断りというわけではないですが、純粋に申告だけでしたらもっと安く受けてくれる税理士はたくさんいると思います(特に私の報酬が極端に高いわけではないですが・・・)。
ただし、何かの縁で気に入ってくださった方は大歓迎ですし、どんどん業績を伸ばして事業を大きくしていきたい方などはビジネスモデル策定、事業計画、資金繰りなど幅広く経営相談に乗れます。
加えて集客、販促、ITほかの様々なお困りごとに関してもネットワークで信用できるさまざまな専門家とともにご対応いたします。このあたりが強みかなと思っていますので、お気軽にお声がけください。
多国籍企業の洗練された手法とベンチャーでの泥臭い経験を生かし、2011年TAマネージメントかわい公認会計士・税理士事務所を創業・独立。
世の中で優秀な方々が大企業で活躍するのも悪くはないですが、もっと自分や仲間とビジネスを興し支援するような世の中を作りたいと思っています。そのために「洗練された手法を泥臭く実行する」「小さい会社の苦しみと喜びがわかる」経営パートナーとしてそのような世の中を創り出すことに少しでも貢献できればと思っています。
【主な著書】『現場で使える 決算書思考』明日香出版社2020年/『現場で使える 会計知識 』アスカ出版 2019年/『部長の仕事術』アスカ出版 2016年/『外資系エリートのすぐ成長する仕事術』日本実業出版社 2013年