青色申告と白色申告

1.忘れてはならない青色申告の承認申請

私の会計事務所は比較的業歴の浅い方や開業される方を中心としていますので、開業関係のご相談を受けることは多いです。まともにビジネスを始めようと思われている方で絶対に開業時に忘れてはいけない届出は青色申告の承認申請書だと思っています。

なぜならばこれは個人事業主の場合、その事業開始の日から2か月以内、法人の場合は設立の日から3か月以内(決算日がそれまでに来てしまう場合はその日)に提出しないとその年は適用できないからです。これが承認されないといろいろな青色申告の特典が受けられません。

一度、ある飲食店の方が税理士を付けたいと相談にいらっしゃいました。税務署に提出する一切の書類をまだ出していないのですが、年末が近づいてきたので相談にいらっしゃったということです。

個人事業主で事業を始められる場合、開業届を出さないといつ開業したのかあいまいなケースがあります。そういった場合はある程度「事業開始の日」の調整は可能だと思いますが、飲食店の場合、店舗を作ってお客様が来て売上が立っているのに「まだ事業開始していません」とはさすが言えません。

税務署は基本的に青色申告の承認申請書を提出して却下することはないですが、この期限については極めて厳しく、期限が過ぎたものは「はい、翌年からお願いしますね」で終わりです。気を付けましょう

2.青色申告と白色申告

基本的にはみなさん税金を払いたくはないと思うのは自然だと思いますが、原則「納めるべき」税金はごまかさずに納めてほしいものと思います。

たまに見かけるのが、白色申告なので領収書も保存せずに適当に経費をいれて赤字にしている方です。「青色申告ではなく白色申告だから適当でいいですよね」という方いますが、それは大きな誤解です。

確かに以前、白色申告は記帳義務と言うものが非常に緩かったのですが、現在はほぼ青色申告と変わらない記帳義務と関連書類の保存が義務付けられています。

適当にやっていると税務調査の際、調査官も推計課税をしてきます。推計課税は、帳簿が整っておらず様々な基礎資料もない場合、合理的な方法で売上や経費を税務調査官が推計できる規程で、ざっくばらんに言うと勝手に税額を算定して差額を追徴する方法です。したがって白色申告のメリットとして私が感じるのはサラリーマンの副業とかで細々とやっていてあまり取引もなく、お小遣い帳レベルで全て取引を把握できるケースくらいです。

ということで青色申告にしましょう

ただ、一方で青色申告にするといろいろ面倒で大変だと心配される方いらっしゃるかもしれません。別に会計ソフトメーカーの回し者ではないですが、今は年間2~3万程度でできる「クラウド会計ソフト」を使えば簡単な取引しかないフリーランスや一人社長の法人などは決算まではできてしまいます。

代表的な会計ソフト



便利なのは銀行のウェブデータやクレジットカードの情報に直接アクセスして(セットアップは最初に必要です)自動的に会計仕訳の形で人工知能的な仕組みがやってくれます。実は最初は間違えが多いのですがだんだん学習して正確になってきます。さすがに法人の税務申告書は税理士を付けたほうが良いとは思いますが、個人は国税庁のHPの確定申告のソフトか同じくクラウド会計ソフトの申告ソフトで十分作成可能だと思います。

わからないこともネットに結構載っています。ネット情報は実は間違っていることも多いのですが、個人事業主の方が一般的に疑問に思うようなことでの間違えは非常に少ない気がします。

ただし、税金の場合には前提条件があって、それをきちんと理解していないと痛い目に合うことはあります。不安に感じたら税務署に聞くか、少し宣伝ですが、このKITENの専門家相談などを使ってみてください。

3.青色申告のメリットは何か - 個人事業主特有なもの

青色申告でのメリットは何でしょうか?

まず1つめは青色申告の特別控除です。これは申告期限までにきちんと記帳して青色税務申告書を提出した場合に65万円所得から控除が受けられるものです。これは電子申告をしていない場合、再来年の確定申告から55万円に引き下げられるので注意しましょう。

NOTE:電子申告について

電子申告は以前、カードリーダーという機械を買ってセットアップしなければならなかったのですが、今はマイナンバーカード(役所に行ってとってこないといけないカードです)があれば税務署に行ってID、パスワードをもらえばパソコンで可能になりました。

また、どうしても苦手意識がある方は確定申告の際、税務署に行けば電子申告は可能です。

2つめは繰越損失と繰り戻しができることです。前者は要するに損失が出た場合、繰り越して翌年利益が出たらそれと相殺できるというものです。後者は損失が出た際、前年利益が出て納税していたら相殺して前年納めた税金が一部(または全部)帰ってくるものです。特に1年目開業した際には赤字が出ることが多いですからこの部分を青色申告できないために繰り越せないのは痛いです。

3つ目は青色専従者控除で白色申告だと妻や子供たちに給与を払っても経費として一部しか認められません(配偶者86万、その他50万)が青色申告をしていると上限なしで払うことができます。ただし、「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に出さないといけませんし、当然不当に高額な金額は否認される可能性は非常に高くなります。

これ以外に家事関連費があります。

家事関連費とは事業用と私用分が混在している費用を指します。白色申告の場合は事業用が50%超の場合しか経費として認められませんが、青色申告の場合は「必要である部分を明らかに区分することができる」とされるので区分した部分を経費として計上することができます。この部分両極端で気が付かずに経費に計上していない方と、私用でもなんでも経費に突っ込んでしまう方がいます。後者ははっきり申し上げて「ばれないから大丈夫」の世界で税務調査が入ればほぼアウトです。

携帯代、事務所兼自宅でしたら事務所部分家賃(自己所有の場合はローンの金利)、水道光熱費、仕事に使用した自家用車等業務に使用していると思われるものは「業務に使用した部分」を経費とすることができます。

「明らかに区分」とはどうするのですかと言う質問も良く受けます。模範解答は事務所兼自宅だったら「面積割」車など使用するものは使用割合(走行距離など)を記録して合理的に配分です。

ただ、これが面倒でやりたくないという方もいますのでそういった場合、経費算入は半分程度と話をしています。「半分」自体には何の合理性もなく別に税務署も公式に認めていませんが、私の知る限りこれで税務調査において問題となって経費を否認されたという話は聞いたことがありません。

「非常に部屋数の多い家で一室だけ仕事用なのに半分」など明らかに合理性を欠く場合はダメだと思いますが、「合理性を欠く」立証責任は税務署側にあるので、あまり神経質にならなくても大丈夫です。顧問税理士がいる方はそのあたりはこまめに相談したほうが良いとは思います。

4.法人の場合のメリット(中小企業者の場合)

法人の場合も繰越損失と繰り戻しは個人事業主と同様に青色申告で可能なのですが、個人事業主は3年なのに対し、法人は10年間分過去の損失を繰り越せるのでそこは大きく違います。

また、これも個人事業主と共通の特典ですが、資産を購入した場合、30万円未満の資産まで一括経費にできます。青色申告でなければ10万円以上は減価償却として何年かにわたって経費にしなければなりません。

そして、法人特有のメリットとしては様々な従業員の雇用や設備投資に対してその一定額を税金から直接差っ引けるような特典があることです。こういった様々な特典があるので特に設立の際に青色申告の承認申請書の提出を忘れたりすることのないように気を付けて下さい。

NOTE:確定申告は期限厳守

「確定申告、一日くらい遅れてもいいだろう」と軽く考えている方いませんか?実は一日でも送れるとその年の青色申告の特典は一切使えません。そして2年連続で期限に遅れると原則青色申告取り消しとなります。結構これについても税務署は非常に厳しいので注意が必要です。

5.青色申告だと税理士は必要?

前にも述べたように法人は別ですが、個人事業主の場合、なかなかよい会計ソフトなどが出来ているので、税理士が必ずしも必要であると私は思いません。ただ、やはり時間のセーブは大きいと思います。

年商1000万以下で確定申告や記帳が面倒な方は1年分の領収書を丸投げでも10万くらいでやってくれる激安事務所が誕生しています。正直このような方は激安事務所で全然かまわないのではないかと思います。なぜならばこのレベルだと極端な話、よほど非常にひどい間違えをしない限り、あまり税額に響くことはないからです。

ただ、こういった事務所は相談業務などには一般的には力をいれていません。積極的にこうしたらいいなどとのアドバイスはやってくれないので、ある程度利益があがってきたら、相談などにも気軽に乗ってくれる税理士の方がお勧めです。

そういた意味では、上を目指す方は最初から親身に相談に乗ってくれる税理士の方が多少値段が高くても良いのかもしれません。

もう一つの税理士を付けないデメリットは、やはり自己流でやっていると知らぬ間にミスをしていて、税務署が気づけば100%指摘されてしまうようなレベルの間違えをやっていたり、税金を多く払いすぎていたりということがあるようです。

法人は赤字でもない限り、普通は5年くらいたつと一回くらい税務調査はあるものですし、個人事業主もある程度儲かっていれば、いつ何時税務調査があってもおかしくはないです。

なんとなく自分で気持ち悪さを感じているようでしたら、税理士にきちんと相談したほうが良いと思います。

税務署や無料相談なども割と親切に相談には乗ってくれますがシーズンは混んでいて半日仕事になりますし、受けるほうも少しでも込み入った相談は間違えやすいものです。経営者のとって一番大切なのは時間なのである程度仕事が軌道に乗ってきたら税理士は付けたほうがいいとは思います。